あの日、子供たちがヤヤの膝に乗り、お昼寝している様子を見て、ふと感じたことがありました。彼女の手が子供たちの背中を撫でるリズムは、まるで海の波の音のようでした。
私たちはスーパーの精算で、この土地の子育てのルールを学んだつもりでした。でもヤヤは、そのレジの前の行列で、子供たちを泣かせずに待たせる方法を教えてくれたのです。
フィリピンの子育ては、そのような小さな奇跡の積み重ねでした。機械の仕組みを学ぶように、私たちは、心の温かさを伝えるやり方を教わっていたのです。
あの日、彼女の笑顔をふと思い出すたび、今も温かい風が吹いてくるような気がします。
細かい作業を気にかける手
ヤヤが子供の髪を編むとき、指の動きを見て驚きました。フリーハンドで、まるで機械のように正確に。
でも、私が本当に気づいたのは、その作業の合間に、子供たちの表情を何度も確かめていることでした。その姿は、まるで、迷い子を見つける親鳥のよう。
フィリピンの子育ては、人が何を気にかけてくれるのか。それを知るきっかけになりました。ヤヤが買い物袋から取り出す果物の切り方にさえ、その土地の子育ての知恵が隠れていることに気づくのは、後になってからでした。
この瞬間、この時間は、子供たちの記憶に残っているのでしょうか。
夕方の教会の鐘の音
ヤヤが子供たちを連れて公園に行く時間、教会の鐘が鳴るタイミングが5分遅れていたため、ランドセルの子供たちの声が聞こえると、5分間待つことにしました。
その理由を聞いてみたことがあります。『だって、楽しみたいでしょう？』その言葉は、フィリピンの子育ての考えを、そのまま表すもののように、胸に響きました。
そして、そのような文化の習慣が、私たちの家族の日常にも、少しずつ染み込んでいったのです。
雨の日の傘の持ち方
雨季の間、ヤヤが傘を差し出すときの角度が独特でした。その方向は、なぜか、子供たちの笑顔の向きと一致しているのです。
その経験を、妻と二人で話し合ったことがあります。その話を聞いて、妻がこう言いました。『それは、私たちが学びたいこと。うちの方法じゃないけど、そういうものの守り方があるんだね』。
ヤヤの子育てが、私たちの家族のものさしを変えるきっかけになりました。誰かの真似をすることではなく、新しい文化を吸収して、そして、自分たちらしい方法を見つけること。
それが、フィリピンの地で、家族が育まれていくことの意味を教えてくれたのです。
経験の光を、家族の手の中で
ヤヤが帰った後、子供たちの折り紙作品が机に飾ってあったのを見つけました。そこには、失敗した作品も、上手に描けた絵も、すべて一緒に並べられていました。
フィリピンの子育ては、評価の軸を決めるのではなく、その過程そのものを、子供たちの成長の証として大切にすることを教えてくれました。
どんなに、子育ての難しい本を読んでも、わからなかったことかもしれません。この小さなテーブルに、ヤヤが残したものは、親子の絆の形を、私たちが改めて、学び直すためのヒントでした。
この道を、あなたと一緒に
ヤヤが去った後、ある暑い日の午後、子供たちが、自分たちで、おやつを分け合うようになりました。それは、フィリピンで学んだ習慣の一つでした。
その伝統のリズムが、私たちの家族の心に刻まれていく。午後、ヤヤが教えてくれた、いろいろな方法を組み合わせて、私たちは、自分たちの子育ての形を少しずつ見つけていきました。
フィリピンの子育ては、決して、完璧な道しるべを示すものではありません。でも、その道の途中で、見つけた小さな積み木たちが、子供たちの歩みを、支えるための土台になるのです。
そして、その道のりを、私たちは、他の家族の親たちの小さな悩みの声を聴きながら、共に、分かち合っていきたいと思います。