
夜の食卓の片隅、息子が動画を眺めているスマホの画面をそっと覗きました。その光に映り込んでいたのは、AIが選び抜いたおもちゃの広告たち。『あの星、おもしろそう!』と指さしたその瞬間、妻がふとつぶやいた言葉を思い出します。『AIがこんなに子どもの心をつかむなんて、少し怖い気がする』。
AIが選んだ世界に、子どもの指がふれる瞬間

スーパーのおもちゃ売り場で、息子が商品のQRコードをタブレットに読み込む様子をよく見かけるようになりました。機械が選び抜いたおすすめリストが次々と現れ、その横に並ぶ『よく一緒に買われるアイテム』。
そんな光景を見ていると、妻が最初に言った言葉を思い出します。『あの子、AIが選んだものだけ見てるんじゃない?』
ある日曜日のこと。『この絵本、なぜオススメなの?』と息子が聞いてきました。妻がその瞬間を逃さず、『どうしてだと思う?』と逆に質問する姿を隣で見ていました。この習慣が『なぜ?』を考える力の第一歩だと気付きました。
流されていく側ではなく、『選ぶ』という視点を

『お母さん、AIが選ぶものは全部正しいの?』そんな質問の裏に、子どもの心の芽生えを感じる瞬間があります。私たちは、一緒にデジタルマガジンを見ながら、こんなことを考えさせてみることにしました。『AIが選んだものと、あの人が手作りしたもの、どっちが気になる?なぜ?』
電車の広告が次々切り替わる駅のホームで、妻が時々楽しむ習慣があります。『この商品、どうしてこの場所に表示されているのだろう?』と問いを投げかけること。その小さな問いかけが、子どもたちの選択の目を育てる、と彼女はずっと信じていますね。
『本当に自分が欲しいものは、自分で発見する感覚を大切にしたい』
朝食のテーブルで、こんな話をしていると、子どもの心にグッと響くようになった。
おすすめの向こう側にある、自分の手のひらに
『お父さん、このおもちゃ、AIが選んだんじゃないんだよ。ぼくが選んだんだ!』ある日曜日の午後、息子が誇らしげに話したことの意味を、私たちは深く考えました。おすすめのリストの中にありながらも、彼は自分の『なぜこれが欲しい?』を自分で見つけてきた。
その瞬間の達成感を、私たちは大切にしなければなりません。
夜の寝かしつけの後、テーブルでコーヒーを飲みながら、妻がこんな話をしてくれました。『あの子たちが、AIのおすすめを“ただの”すすめではなく、選ぶべき選択肢の一つとして受け取れるようになってほしい』。
妻が細かく見ていることに気付きました。スマホを手に世界を広げる子どもたちの手のひらを、私たちはそっと見守りながら、彼らが自分で考える力を育てる瞬間を、これからも増やしていきたい。そう思う夜でした。
出典: UBIビジネススクール『Retailの未来』(2025年9月30日)
